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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)601号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

原審認定のような事情にある木材仮差押執行においては、仮差押債権者としては第三者たる被上告人らの所有権侵害を防止するため、その所有者を調査する等の措置を採るべき注意義務があるにも拘らず、上告人代理人中島浩喜は右注意を怠り漫然債務者たる杉山林業の申出を無視して右仮差押執行をなさしめこれを継続した結果右義務に違反したもので上告会社には過失があるとした判断、更に本執行に移行せしめる強制執行の差押においても差押債権者としては前記同様の注意義務があるにも拘らず上告人代理人中島浩喜は申出を無視して差押処分し、その後執行を解除するまでこれを継続した上告会社には過失があるとした判断はいずれも肯認できる。杉山林業においては当時他より賃挽製材の委託を受けた場合記帳をしていなかつたため、上告会社代理人に対し帳簿等を提示することができなかつたことは原審も認めているところであるけれども、杉山林業側は中野雅幸又はその代表者中野恒幸において本件松丸太又は杉丸太が杉山林業の所有でなく、第三者である被上告人らの所有である旨申し出たのに止まらず、木材に打たれた、松丸太については被上告人清野のK(丸囲みの中にK)なる刻印、杉丸太については竹口(四角囲みの中に竹口)なる刻印を指示説明して仮差押並びに本差押すべからざることを主張したばかりでなく、材木に対する所有権の表示方法としてその切口断面に自己の刻印を打つことが一般的慣行として行われ、上告人代理人中島は杉山林業の刻印が杉(丸囲みの中に杉)であることを知悉していたことは原審が適法に認定したところであつて、原審が右事実に基き上告会社に過失があつたものといわなければならないとした判断は相当であるからこの点に関する論旨は採用できない。

つぎに原審は挙示の証拠により、本件松丸太は下積みの部分が腐蝕した上、梅雨期を越したため下積み以外の部分も相当変色し、製材不能の相当量生ずると共に製材可能分も製品価値が減じ、杉丸太は乾燥により縦に割れ裂けを多く生じたため、建具材料として使用できる板の量が減少し、松丸太は全体的に見て原木としての価値が半減し、杉丸太は原木としての価値が約四〇石に相当する分だけ減少したことを認定したもので右認定は肯認できないことはないから原審に所論違法はない。

更に論旨は、原審の損失発生防止につき被上告人らに過失がなかつたとした判断を争うけれども、証拠がないとして被上告人らの過失を否定した原審の判断は相当であつて原判決に所論違法はない。

同第二点について。

論旨は判例違反をいうけれども、前示のような、原審認定の事情は少くも昭和三〇年二月一一日当小法廷判決、民集九巻二号一六四頁にいわゆる特別の事情に該当するものといわなければならないから所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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